若手経営者がやりたいことを成功させるために…ヒット商品への挑み方
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若手経営者がやりたいことを成功させるために…ヒット商品への挑み方

「世界中から寒いをなくしたい」を目指し、「もちはだ」ブランドを国内外で起毛インナーを販売しているワシオ株式会社。50年間のロングヒットを続けているが、新しい柱としクラウドファンディングをはじめとした先進的な売り方に取り組んでいる。株式会社ワシオの若き3代目となる鷲尾岳統括本部長にヒット商品の次の挑み方を、ニューワールドの井手康博社長に聞いた。

後継者は会社のすべての数字を叩き込んでから、やりたいことを始めよう

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――おふたりは大学時代の同級生と伺っています。今日は久しぶりですか。

鷲尾:1年とか1年半とか空いていますかね。

井手:新型コロナの感染拡大で2020年は会えなかったので1年半ぶりくらい?

鷲尾:そうですね。

井手:2年ぐらい会っていないかもしれない。鷲尾さんとはバスケットボールのサークルを一緒に立ち上げてからの付き合いですので、12年ほどになりますね。

鷲尾・井手:年をとったなぁ(笑)。人生の半分近くの付き合いなので、長いですね。

事業を継承する難しさや新しい挑戦への大変さ

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――おふたりの関係性が見えたところで本題へ参りましょう。今日はニューワールドさんとの取り組みもしかりですが、事業を継承する難しさや新しいことに挑戦することの大変さを伺いたいです。せっかくの同級生同士ですので柔らかい掛け合いでいきたいと思います。

鷲尾:はい。井手さんとは初めて仕事のことを相談したときから、事業の難しさや継ぐとことの悩みを話しています。長い付き合いですので、私のことは相当知っていると思います。


 そもそも私が継ぐ気はなく、兄貴が継ぐとばかり考えていました。5年ほど前、私は中国で働いていたのですが、帰省で実家に泊まると親同士の深刻な経営の話を耳にしました。放っておいたら色々やばいなと感じたのです。

自分にもできることがあるのではないかと思い、2016年2月に親に頼んで入社させてもらいました。いざ入社すると、会社の状況が想定よりもだいぶ悪かったですね。表面化していないものを数値化すると、厳しさが増してしまいました。

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ーー入社前に抱いていた家業のイメージとは違いましたか?

鷲尾:全然違いましたね。外から見ていたら弊社の製品を芸能人が着ていたり、社長でもある父が政治家と会っていたりするなど、業績は良さそうにみえました。いざ調べると、新しいお客様が全然増えていないですし、みんなが忙しいのに全く儲からない。そして誰も気がついていないというのが、入社当初の状態でしたね。

ーーひょっとすると、見てみぬ振りだったのでは?

鷲尾:いや、誰も気づきさえもしていなかったですね。数字で会社を評価できる人がいませんでした。

何の根拠もなく「何とかなるだろう」と考え、過去のやり方を変える発想もない。「もっと安く作るためにはどうすればいいか」「もっと利益を取るためにはどういう商売をするべきか」といった観点が抜けていたのです。それは「もちはだ」という弊社の商品が営業しなくても売れてきた時代が長かったからかもしれません。

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ーー「もちはだ」はいつ頃から、看板商品だと思うのですが、いつ頃生まれた商品なのかおさらいさせてください。

鷲尾:1970年ですね。今年で51年目です。

ーー「もちはだがあるし大丈夫」だという社内の雰囲気なんですね。

鷲尾:世界でもうちでしか作れないという前提があり、皆が欲しがっているという状態で生きてきました。めちゃくちゃモテているみたいな感じですかね。

井手:わかりやすい。

ーー転換点に誰も気づかなかったのですか

鷲尾:田舎の会社の特徴だと思います。この辺り(兵庫県加古川市)は風景がずっと変わっていません。10年経っても同じ風景で過ごしている人と、1年ごとに風景が変わる東京をはじめとした都市部で働いている人とは、やはり時間の流れ方が違います。私も油断すると遅くなるので、定期的に都市部へ出ていっています。


認知向上だけにクラウドファンディング活用

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ーー井手さんとは、いつ頃再会なさったのですか。

鷲尾:私が入社して1年も経たないうちですね。売り上げを立てていくのに何をすればいいのかを考えていました。弊社の課題は認知であることにいきつきました。商品はいいのに知られていない。かつ、知られたとしても商品が現代にフィットしていない。

まず取り組むなら、クラウドファンディングがいいのではないかと思いました。いざMakuakeでプロジェクトを始めるにも、私達の良さを伝える術がありませんでした。そのときたまたまFacebookで井手さんが、ものづくり系のメディアをやっているぞという投稿があり連絡を取りました。2016年のことでした。

井手:16年だっけ?

鷲尾:はい。入社した年なので覚えています。

ーー井手さんはそのとき、どう思われましたか?

井手:ちょうど私たちも、ものづくりの領域の事業を2016年の夏ぐらいに始めました。本当にまだ走り出したばかりでした。コンテンツを作ったり、ECサイトのオープンの準備をしていたりした時期でした。ものづくり企業のPRや販促の動画制作を軸に考えていました。

実は弊社にとっても鷲尾さんからの相談がきっかけで、クラウドファンディングのお手伝いを始めることになったのです。新しい販路を使って、テストマーケティングだったり、PRをやっていくことだったりといった動きは、私たちの動きにフィットしていました。

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ーー認知度をいかに上げるかがポイントになると絞られてきたわけですね

鷲尾:認知が課題であることは、社内で新陳代謝の起こっていなかったことが大きいです。50〜60歳代のテレビや新聞折込広告で購買を決める世代はがっちりつかんでいましたが、私たちのような30歳代はお客様としていない。

私のように着れば実感できます。着膨れもしませんし、単純に価値として勿体無いという思いがありました。自分の世代の人たちに伝えていけばもっと売れるのにという思いがベースにありました。ただ「もちはだ」で人前に出られるかと言われれば出られない。今うしろに映っているこの辺です。やはりネタのような格好になる。

ーーいわゆるラクダの股引(ももひき)ですね

鷲尾:あとはシーンですね。釣りやバイクの時に着れば重宝します。この商品が生まれた50年前は暖房設備が充実していない時代で、日常生活で着るもので暖をとるというのが共通認識としてありました。

ーー新しい商品をまず試すときに、全種類そろえるわけにはいかないですもんね。

鷲尾:最初から井手さんと相談していたのは、これはPRだと割り切っていました。儲ける気は全くない。取材をどれだけセットさせられるかが勝負だという話をしていました。井手さんから提案されたのが、私のロングインタビューでした。

あれで色々な人が見てくれましたね。思いの強い若手の経営者という位置付けにしてもらえたのがあのロングインタビューです。私という人間を伝えたら面白いことになるのではないかとニューワールドさんの嗅覚が助かりました。


社内の反対はなかった

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ーー進めていく中で、社内からの反対はなかったのですか。

鷲尾:反対はなかったですね。コストは少なくやろうと設計していました。

ーーなるほど

鷲尾:今回は100%私の責任です。お金もそれほど使わず、反対する理由は特にありません。新聞の折込広告と同額くらいだと話せば誰も気にしませんでした。

井手:だれも言えなかったですよね。金額もかけてないしね。

鷲尾:新聞広告と同じくらいならいいんじゃないかというのが前提としてあります。

ーーちなみに、鷲尾さん自身が社内のことを一番理解するためにやったことが活きたわけですね。

鷲尾:それは間違いないですね。私と同じような同じ立場の人に向けてのメッセージがあるとすれば、最初は現状把握することだと思います。誰も知らない範囲の情報をとてもつかんでいることがとても大事です。

ーー井手さん、悩んでいる同じ世代の人が多そうですね。

井手:そうですね。跡継ぎが実際に経営へ深く入ってチャレンジしているような人は増えてきました。最初にやらないといけないことが何かをズレてしまうと、コミュニケーションがうまくいかなかったり、社内の理解を得られなかったりしてしまった方々の話も聞いています。その意味でも、まず現状を把握することが大事なのかなと思いますね。

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ーー現状把握はどのようになさったのですか

鷲尾:これが大変でした。そもそも会社に数字がなかったんです。誰も分析してこなかったので、まず揃えることから始めました。紙に書かれた数字をエクセルの中にひたすら入力していったおかげで、頭にも入りました。3年分の分厚いファイルをめくりエクセルに入れながら、色々分析しました。
例えば取引先にいくら支払ってきたかを分析すると、払い過ぎもみえてきたり。このような情報を社内で誰も持っていませんでしたので、社内で一番経営の数字を理解できるようになりました。

ーーそれは大きいですね。

鷲尾:はい、それは本当に、あれがベースにあったので今やれているのは間違いないですね。

ーーそれはどのぐらいの期間かかったんですか。

鷲尾:1ヶ月ぐらいです。

井手:すごいね。


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ーーその数字の中でも、技術力に対しての否定する気持ちはなかったんですよね。

鷲尾:技術力は、実際に私自身が使って実感していることもあったのでどういうものかというのは昔から知っていました。生活にあったら暮らしにとっていいものだという確信はずっとありました。

ーー数字面の不安はあったけれども、技術に対する自信は強かったわけであって、売り方さえ変えればまだまだいけるという気持ちは強かったわけですね。

鷲尾:おっしゃる通りですね。

ーークラウドファンディングを始めたとき、さっきの手に取られた商品だと思いますが、その商品にこぎつけるまでは井手さんとどういう話を進めてこられて、完成にこぎつけたのですか?

鷲尾:製品開発は私がやっていました。そこに対しての相談はほぼしていません。

井手:ものは決まっていました。そのタイミングでは。

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ーー井手さんは商品を見られて最初にどう思いましたか?

井手:機能面は「着て暖かい」ことにインパクトがありました。今までの「もちはだ」も見せてもらっていたので、デザインを一新したこと。そこに鷲尾という人にフォーカスし、ストーリーを追加しました。若き経営者が頑張っていることを発信させてもらいたかった。商品自体は出来上がっていたので、私たちとしてはストーリーづくりに集中させてもらえたというのがやりやすかった。この連携が成果に繋がった部分があると思います。

ーーストーリーとして若い経営者が奮闘しているというかたちでいけるなということですね。

井手:イメージはわきやすいじゃないですか。私も鷲尾さんから話を聞いて共感したので、皆に知ってもらえれば同じように共感してもらえるのではという思いがありました。

ーー鷲尾さんのパーソナリティーの部分なのか、出来上がった商品の部分なのか、どちらへの共感が強かったですか。

井手:私はパーソナリティーの方が強かったです。もちろんお客様がお金を払う以上「なぜ暖かさを実現できているのか」といった機能面がないとだめだと思うので丁寧にまとめました。ただ鷲尾という人間のパーソナリティーを映すことにもスポットライトが当たるように設計しました。

ーーそこが大事なところですね。鷲尾さんはご自身でやろうとするとなかなか難しいですか。

鷲尾:そうですね、自分では分からないです。

ーー客観視できない?

鷲尾:自分のキャラクターが世間に対してどう見えるかとか、どこに魅力を感じてもらえるかは自分では分かりません。ひとりで考えていたら出てこなかったと思います。あとは、変に気を遣って言えないことがある仲ではないので、探り合いのようなことがなかった。それは良かったです。やりやすかったです。

ーーおふたりの流れ、信頼関係があったというところですね。

鷲尾:付き合いの長さと、Facebookでよく投稿が出てくるので。

井手:広報活動です(笑)

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ーー新しい風が吹き込んでいた中で、社内はどのような感じでしたか。

鷲尾:先程申し上げた感じで、社員は何をやっているのか分からないという感じが続いていました。ただこんな方法でものが売れ、さらには「もちはだ」が高額でも売れることに驚かれました。取材が増えたので、よく分からないけれども何かやってくれているなという印象は広がりましたね。

井手:PRだから、狙い通りですね。

鷲尾:そうですね。営業しやすくなったというのはよく聞きます。営業先で「お宅の息子さん頑張っているね」と言われるようになったらしいです。

ーー社内の空気は変わるかな、変わらないかなというのはあまり気にしていませんでしたか?

鷲尾:気にしていなかったです。私は自分で全部やると思っていましたから。

井手:それぐらいパワーがかかる、人を巻き込んでできればいいですけれども、自分で率先してやるしかなかったでしょうね。

鷲尾:そうです。私の性格上、人にお願いをして頼るのがあまり得意ではありません。自分でやることでしか物事を考えられないという性格の部分もあると思います。

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ーーそこに井手さんの会社、同世代の人たちと一緒に考えて動くという中で、だいぶ変化が出てきたと思います。その14,000円という値付けは、社内の方も驚いたとおっしゃっていたと思うのですが、一般的な肌着はいくらぐらいですか。

鷲尾:そもそもうちは高級な肌着と呼ばれる部類で、大体インナー2つで6,000円です。それが少し高い価格で受け入れられた。皆が知っている肌着ではないジャンルで挑戦したので、全員何も分からないというのが強かったと思います。

ーー逆にいうと、鷲尾さんが自身で練った戦略が、カテゴリーチェンジをして金額を倍に上げることに成功しました。それも社内の方も分からない状態にまで持っていったと思います。ちなみにどのあたりでいけると勝算が見込めましたか。

鷲尾:まず競合となる洋服をたくさん見ました。どういうものがいくらで売っていて、それはなぜなのかを勉強しましたね。単純に我々が知識不足だったと思うので、見せ方や伝え方を変えたらいけると思えました。そのときですかね。

ーー井手さん、それを聞いたときどう思いましたか。

井手:めちゃくちゃ勉強しているなと思いました。やはり、自分が挑戦しようと思っている領域を見まくっているでしょうし、マーケットリサーチの領域をすごく狭めて深くやっている印象があった。ネットで調べて出てくるような表層的なリサーチ結果ではなく、自分で動いているからこそ出てくる深い情報を持っていたのでそれはすごいなと思いました。

ーー友達から経営者の視点へ変わると思うのですが、取引先としては手強くなりますよね。

井手:いや、すごくやりやすかったです。私たちはマーケティングのサポートなどもさせてもらっていますが、商品企画や値決めなどは鷲尾さんが決めてくださいました。我々は「なぜこの1枚が14,000円するのか」的確に伝えるクリエイティブをという考え方に切り替え集中しました。

ーークラウドファンディングは何回なさったんですか。

鷲尾:5回やっています。

ーー当初から5回仕立てだったのか、成功を重ねた結果なのか。どちらですか。

鷲尾:3回までは決めていたステップとして挑みました。すべてニューワールドさんにお願いし、結局5回やってしまいました。

井手:しかも4回目と5回目は、同時にですからね笑

ーーなぜ同時になさったのですか。

鷲尾:新しいチャレンジという文脈でないと、そもそもクラウドファンディングはする必要がないことだと思っています。なので同時に2つのプロジェクトにチャレンジすることにしました。

井手:確かに。

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ーー同じような事業承継予定の方へメッセージを伝えてください。

鷲尾:行動することではないでしょうか。考えるよりも手を動かした方が早いというのは、陽明学という考え方に基づきます。ごはんを食べると言いながら、実は食べていないという人はいません。このようなことです。食べると言って食べない世界は、本当に思っていたら本来あり得ないわけです。「やろう」と言ってチャレンジしないのは、真剣に思っていないからではないですかという感じですね。

ーー井手さん、そういう経営者は多くないですか。

井手:多いですね。まず身体が動きがちで、後から文脈をつなげる、点を線にしていく経営者が多いと思います。動いてみてどうなったから、やめるのか走り続けるのかちょっと右や左に行くのかでないとスピードが出ないと思います。

ーー今度取り組みたいことは何かありますか

鷲尾:私は一般的な経営者と若干違うのは、やりたいベースで動いているわけでないところです。やった方がよいという感覚で動いています。大きな夢があるかというと、抽象的にはまわりの人が皆幸せであればよいぐらいです。
ただ、今私が持っている装備でできることは何だろうと考えたときには、”世界から寒いをなくしたい”という言葉でずっと話しているのですが、1日中寒いと思わない冬が実現できればそれは皆がハッピーだと思います。抽象的ですがそれをしたい。頭からつま先まで「もちはだ」で、日常から寒いという要素がなり、冬を豊かに過ごしてほしいですね。


世界から寒いをなくす「もちはだ」はこちら



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